安般守意 益気森林浴 あんぱんしゅいえっきしんりんよく 「釈尊の呼吸法」



釈尊の呼吸法







(”大法輪閣-仏教へのいざない→法話 ”より)

釈尊の呼吸法 ─『大安般守意経』に学ぶ─

諫早市・天祐寺住職 須田 道輝(すだ どうき)  (2006年『大法輪』3月号より抜粋)

 釈尊の呼吸法としてまとまった漢訳経典に、『雑阿含経(ぞうあごんきょう)』巻二九(求那跋陀羅(ぐなばつだら)訳)のなかの一連の「安那般那念経(あんなばんなねんきょう)」と、それを継承したといえる『大安般守意経(だいあんばんしゅいきょう)』(安世高(あんせいこう)訳)とがあります。今回は主に『大安般守意経』の記述に沿(そ)って、釈尊の呼吸法を紹介したいと思います。


安般守意=入息出息の呼吸
 釈尊はある日、比丘(びく)たちに向かって「三ヵ月間禅定(ぜんじょう)に入りたいから、食事を運ぶ一比丘のみは往来を許すが、他の者は入定(にゅうじょう)を妨げないように」といい、入定されました。九十日が過ぎて定より覚めた釈尊は、比丘たちに向かって「この三ヵ月間、私は安那般那(あんなばんな)の念をもって坐禅し、入息出息の呼吸による修行法を悟った」と述べられ、安般守意(あんばんしゅい)の禅定を開示(かいじ)されたのが、この経典です。
 経典には、
 「仏九十日独坐(どくざ)したるは、十方の人及び虫類に至るまで度脱(どだつ)せんがためなり」
とあり、すなわち安般守意の坐禅は、広く十方世界の人々を救うために、誰でも容易に実行でき、しかも絶大な功徳を実現する坐禅の法として示されたということです。
 「安般」は、安那般那(anapana=アーナ+アパーナ)という音写語を略したことばで、安那(アーナ)とは入息、般那(アパーナ)は出息の意味です。「守意」は、原語はサティ(sati)で、これは「念」とも訳される語であり、心を集中するという意味です。つまり「安般守意」とは、坐禅中に入る息・出る息に心を集中することとなります。
 釈尊は、次のように述べておられます。
 「この安那般那の念を心にかけて坐禅するならば、身体は疲れることを知らないし、眼も心も患(や)むことなく、真実を見すえて、安らかに生きることができると同時に、迷いを離れ、禅定の境も深まり、神通(じんつう)の力も増大する」
(『雑阿含経』「安那般那念経」)
 この入息出息法を実習するには、六段階の方法があります。「数息(すそく)・相随(そうずい)・止(し)・観(かん)・還(げん)・浄(じょう)」の六事(ろくじ)です。
 「数息」は、いわゆる数息観で、雑念に悩まされない坐禅です。
 「相随」は、息が自然に統一へと向かうこと。
 「止」は、心を一境に集中すこと。
 「観」は、心を法に向けること。
 「還」は、意を心の本性に戻すこと。
 「浄」は、心の本来の清浄さを守ることです。
 この六事は、六段階というよりそれぞれの適性、修行歴などに合わせた坐禅の内容と考えたほうがいいかもしれません。六事を順を追って説いたのがこの『大安般守意経』ですが、ここでは主に数息観について学びたいと思います。


『大安般守意経』の数息観
 数息というのは、いうまでもなく坐禅中に息の出入を数えることです。息を数えるのは、正しい呼吸によって、息の乱れ、身心の乱れを調(ととの)えるためです。坐禅はまず息を調えないと、修行の本体である止観へと進めません。禅門でいえば、境界(きょうがい)が深まらないことですから、当然そこから発する叡智(えいち)の輝きも閉ざされたままです。
 息が深く調えられて、初めて身心一如(しんじんいちにょ)の坐に徹するものです。『大安般守意経』には、息というのは微細(みさい)であるから、その微細なところに念を止めて守るところに「慧(え)」(叡智)が生まれると述べられていますが、宗教心というのは、この息と生命との微細なはたらきに気づくことではないでしょうか。息に気づくことは、微細な心や生命に気づくことに直結しています。
 これは仏教だけではなく、他の宗教、思想においても、息と心と魂とは深い関わりがあることに注意しています。
「魂」「霊」を意味するラテン語の「アニマ」(anima)やドイツ語の「ガイスト」(geist)は、いずれも本来は「風」「息」という語源を持っているといいます。微細にして眼に見えない風や息は、ヨーロッパにおいても古来、神秘のはたらきとして感じられていたことが分かります。
 古代インドでは、肉体を司るものを「アス」(asu 生気)といい、そのアスのはたらきを「マナス」(manas 意(い))といいますが、そのアスはもともとは息を意味します。つまり洋の東西を問わず、息と生命現象との間には密接な関係があると感じられていたといえます。
 呼吸(いき)は普段、眼にも見えないし、これという力も感じられない、果(は)かなく頼りないものですが、一たん呼吸を止めてみると、これほど絶大なものはなく、苦痛の激しさは深刻で、すぐさま肉体の死に直結するものです。
 釈尊はその苦行時代に、息を止める苦行をされましたが、息止めの苦行はもっとも苦しく、死ぬほどのもがきと痛みが全身に走ったと告白されております。釈尊にとっての呼吸は、生命そのものとして実感されておられたものです。













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